| 第4回
デジタル・ミュージックの変革
MP3とCD−R
99年から今年にかけて、パソコンによって大きく変わったものといえば、デジタル・ミュージックが挙げられます。中でも注目度が高かったのは、MP3とCD−Rの急速な普及だと思います。MP3とは、CDなどの音楽を本来の容量の数分の一に圧縮する高度な技術仕様です。本来、CDに記録されているデジタルデータは、六四〇MBほどになりますが、MP3で圧縮すればこれをおよそ十分の一の大きさに縮められるのにもかかわらず、原音にひけをとらないような高音質で再生できるのです。圧縮したことによって得られるメリットには幾つかあります。一つは、パソコン上で自由に好きな音楽を聴けること。いまどきのハードディスクなら、MP3に圧縮した音楽を何百曲も収容することができます。
これをMP3データ用のジュークボックス・ソフトで再生すれば、1日中まるで有線放送のように、たくさんの曲を流せます。いくら最近はやりのCDチェンジャーでも、ここまで大量の音楽を流しつづけることはできません。
 
様々なデザインのMP3プレーヤ
(ジュークボックス)・ソフト
これにさらに拍車をかけたのが、CD−R(書き込み可能なCD−ROM)の普及です。MP3とCD−Rを使えば、本来十曲ぐらいしか音楽が入らなかったはずのCDに、約百曲、CD十枚分のデジタル・ミュージックを記録することができるわけです。編集もパソコンを使えば、簡単に自分の好きな音楽を選んで一枚のCDに収録できます。この二つの組み合わせによって、パソコンユーザの間に爆発的にMP3のブームが広まっていきました。アメリカでは、CD−Rドライブを搭載したパソコンが、日本よりも多く出ています。
実は、アメリカと日本の状況でおおきく違うことが一つあります。日本ではパソコン用の高密度記録メディアとしてMO(光磁気ディスク)が、広く普及していましたが、これに匹敵する大容量の標準メディアがアメリカにはありませんでした。そういった部分もあり、アメリカでは日本よりも早い時期から、CD−Rの普及が始まっていたのではないでしょ
うか。
デジタルミュージック・プレーヤ
もう一つ、MP3ブームの立役者は、ポータブル・MP3プレーヤです。ダイアモンド・マルチメディア社が、Rioという小型のポータブルMP−3プレーヤを発表して以来、各社から様々なポータブルプレーヤが出荷されるようになりました。日本でも大型カメラ店などで、専門のコーナーが設けられるほど、人気がでてきています。

ダイアモンド・マルチメディア社のポータブルMP3プレーヤ Rio
このポータブル・MP3プレーヤはMDプレーヤや、ポータブルCDプレーヤと比べて、非常に小型で、小さなラジオ程度の大きさです。単三電池一本で何時間も音楽を再生することができます。しかもCDのように、振動で音とびすることもありません。家ではパソコンで、一日中自分のミュージックライブラリを有線放送のように聞いて、出かけるときは好きな曲を選んで、ポータブル・プレーヤに転送するだけです。使い方さえなれてしまえば、ステレオをつかってCDからMDに曲を選んで録音するより、よっぽど簡単にできてしまいます。Rioを皮切りにして、各社から様々なポータブルMP3プレーヤが発売され、店頭を賑わせています。また、アメリカでは、据え置き型のCDプレーヤにも、MP−3対応のものが各種でてきています。
また一つ、アメリカと日本で状況が違った点があります。日本ではもはやポータブルカセットプレーヤは過去のもので、MDプレーヤが主流になっていますが、アメリカではMDはまったくといっていいほど普及しておらず、カセットに代わる機器がありませんでした。ポータブルMP3プレーヤの登場によって、MDをジャンプして一気にデジタルミュージックプレーヤへの移行がかかっている感があります。
インターネットとデジタルミュージックが変える音楽の流通
さて、デジタルミュージックをブレイクさせた三つめの要因は、インターネットです。MP3によって低容量化された音楽は、電話回線の低速な接続でも、インターネット経由で簡単にやり取りが可能になります。これで、友達と電子メールなどで、簡単にMP3データのやりとりができるようになったわけです。レンタルCD店でCDを借りて、テープやMDに録音、友達にダビングしてあげたりすることは良くある話ですが、インターネット経由で楽曲のやり取りができることとの大きなちがいがあります。いったんCDからMP3に変換してしまえば、インターネットで何回やり取りしても、音質の劣化は完全にゼロです。しかも、遠隔地の人とも簡単にコミュニケーションができてしまいます。匿名性の高いインターネットのことですから、友達同士の交換にとどまるはずもありません。ここで著作権の存在について、注意しておかなければいけません。著作権上では、個人で楽しむ以外には、別のメディアに複製したり、交換したりすることは禁じられています。もっとも、友人同士などのカセットやMDのダビングが著作権法違反として起訴された判例はないと思います。MP3データの交換は、個人同士のみにとどまらず、商用ベースにもひろまっていきました。中でも一躍有名になったのが、アメリカのナプスター社のサービスです。

ナプスター社のホームページと、ソフトウェアの画面
ナプスター社の供給するソフトをインストールして、同社のサーバーに接続すると、接続された世界中の見知らぬユーザー同士がインターネットを介して自由にMP3ファイルを交換することができるというものです。ナプスターにつながってしまえば、ただもう巨大なミュージック・ライブラリから好きな曲をいくらでもダウンロードできるし、自分のライブラリも匿名で公開できてしまいます。
このサービスに対し、多くのレコード会社や有名アーティストから抗議が続出、全米レコード協会(RIAA)は、ナプスター社を相手取って訴訟を起こしています。ここアメリカでは、ナプスターの是非を議題にした討論会もよくテレビで放映されるぐらいホットな話題になっています。
その一方で、レコード業界にとってさらにやっかいなソフトが登場しました。ニューテラ(Gnutella・グニューテラと発音されることもある)といわれるフリーソフトです。ニューテラでできることは、ナプスター社の提供するサービスに非常に似ています。ただ、ナプスターで交換できるファイルが音楽に限られているのに対し、ありとあらゆる電子ファイルを検索、ダウンロードすることができる点が異なる部分です。実は、ニューテラの本当の凄さは、その仕組みにあります。ニューテラは、ナプスターのように仲介するサービスの存在することなく、世界中のユーザのパソコン同士をつないで同じ事かそれ以上のことを実現してしまいます。

ニューテラで実際に「BEATLES」の曲を検索してみたところ 961個のファイルが確認できた。また、約千台のマシンで合計約十二万個・約二千GBの
ファイルが公開されていることが表示されている。エンドユーザーのマシンを利用してい るため、各容量は刻々と変化して行く。
一方、このニューテラやナプスターが世界に対して非常に有用なアイディアを与えてくれた面があります。それは、世界中の数千万ものパソコンがサーバへの接続なしで、接続することができるというまったく新しいコンセプトです。パソコンとインターネットの進化が音楽の流通と、インターネットのコンセプト自体に大きな影響をおよぼしたと言えます。すでに、ニューテラを利用した、サーバを利用しない検索エンジンの実験や、オンライン広告など、音楽交換ソフトに留まらない、商用ベースを立上げようとする試みまではじまっています。
(さるー注:ニューテラには主宰サイトというものがありません。ニューテラに関する日本語ページをリンクしておきますので興味のあるかたはご覧下さい。)
レコード会社と大手メーカーの進出
レコード会社は、CDを主体としたこれまで同様の配給方法をなかなか変えようとはしませんでした。しかしながらエンドユーザとインターネットを巻き込んで大きく動き始めたデジタル・ミュージックに対して、徐々にビジネスを展開しつつあります。MP3が著作権保護の仕組みをもっていないことに対して、メジャーレーベル配信のためのシステムと、著作権保護のための管理システムが開発されました。これにより、有料によるデジタル・ミュージック配信のサービスが各社から始まりつつあります。これが広がって行けば、お店に行ってCDを買うよりも、インターネットでつないでお金をオンラインで払えば、どの新曲もすぐに手に入るようになっていきます。
一方、大手電気メーカーからは、著作権保護に対応した、ポータブル・ミュージックプレーヤが発売されました。さすがに電気メーカー製だけあって、若者にも人気がでそうな、コンパクトかつデザインの優れた製品に仕上がっています。また、ソニーからはメモリースティック、東芝や松下からはSDカードという、カセットテープやMDディスクのかわりとなる、著作権保護の仕組みを持った、超小型のデジタル記録メディアも発売されています。まだ一枚あたりの単価が高いので、おいそれと何十枚も買いこむわけにいきませんが、いずれはこういうメディアが、MDディスクやCDディスクに取って代わっていくのかもしれません。

洗練されたデザインの松下とソニーのポータブルミュージックプレーヤと、著作権保護の仕組みを
搭載したデジタル記録メディア、SDカードとメモリースティック。 (写真撮影:荒木義満)

松下のプレーヤーは、こんなに超小型の設計。この大きさでCD一枚分の音楽が収録できる
携帯電話の発達がめざましい日本では、こういったメディアを搭載した携帯電話やPHSで直接音楽を受信するためのサービスまで発表されています。
パソコンとインターネットが切り開いた、デジタルミュージックの新しい流れが、日米のミュージック・メディアを大きく変革させました。さて、今年はどんな新しい革新が、インターネットで起きていくのでしょうか。
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